監修産婦人科医
・昭和59年徳島大学医学部卒業
・東京医科歯科大学産婦人科、都立病院等に勤務
・平成7年9月、横浜市都筑区にてにしだファミリークリニック開業
・平成30年3月閉院 ・産婦人科医・専門:内分泌(思春期・成人の卵巣機能不全、不妊症、更年期)
子宮内膜症とは何かを理解しましょう。そして、治療法の選択肢を知ることです。この2点を抑えておくことが理解を深めるポイントです。
なぜなら、子宮内膜症を理解することで自分の病気に積極的に関われるようになります。
積極的な姿勢が治療にはとても大切になります。
選択肢が多い方が可能性も広がりますし、自分の目的に沿った方向性を選ぶためにも重要です。
この記事を読めばこの2点はカバーすることができます。ぜひ最後まで読んでみてください。
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子宮内膜症とは
本来、子宮内膜にしか存在しない子宮内膜組織が子宮以外でも増殖する病気です。一度発症すると、閉経するまで症状が進行してしまいます。
子宮以外にできた子宮内膜組織は、子宮と同じように増殖→剥離を繰り返します。
生理のように体外に出られない剥がれ落ちた子宮内膜組織が体内に溜まることで炎症を引き起こします。この炎症が痛みを引き起こします。
さらに、炎症は癒着を発生させます。この癒着も痛みを引き起こします。炎症と癒着の2つが重なるので、子宮内膜症は強い痛みを感じやすいです。
*癒着とは、本来は離れている臓器や組織がくっつくことです。
最近は若い女性の発症が増えて、「生理がある女性の約10%は子宮内膜症になっている」ほどです。特に、女性ホルモンであるエストロゲンが活発に動いている20~40代の女性の発症が多いです。
命に関わる病気ではありませんが、卵巣機能がある限り根治しにくく、再発率は高いです。不妊の原因となることもあります。
また、子宮内膜症と確定しにくい病気でもあります。
問診と内診の所見、血液検査(CA125という腫瘍マーカー数値)、超音波、CT、MRIなどの画像検査を総合して確定します。
そのため、段階的に検査を重ねて診断していきます。
一般的には、問診→内診・直腸診→超音波検査→血液検査→MRIと順番に受けることが多いです。
子宮内膜症は痛い
子宮内膜症の特徴的な症状は「痛み」です。
市販の鎮痛剤では効かないほどの強い痛みが出ることがあります。強い痛みは、日常生活に大きな影響を及ぼす要因です。
代表的な痛みの例え
- 強い生理痛
- 下腹部痛
- 腰痛
- 性交痛
- 排便痛
他にも子宮内膜症の症状はあります。
- 不妊症
- 生理の量が増える
- 便通トラブル
痛みの引き起こす2つの原因
①子宮内膜からプロスタグランジンが分泌される
子宮内膜は女性ホルモンであるエストロゲンとプロゲステロンの影響を受けて、だんだんと厚くなっていき、受精卵が着床するベッドを作る役割があります。
厚くなった子宮内膜は剥がれ落ち、子宮外に排出されることでリセットされます。これが生理です。
プロスタグランジンとは、子宮内膜が剥がれ落ちる時に分泌される物質です。子宮を収縮させて、剥がれ落ちた子宮内膜を外へ出す働きがあります。
このプロスタグランジンは痛みを強める作用も持っています。
子宮内膜症は、子宮内膜が子宮以外で、増殖→剥がれ落ちるという現象が生理サイクルと同じように起こります。剥がれ落ちる時に、子宮と同じように病巣でもプロスタグランジンが分泌されます。
通常であれば子宮だけからプロスタグランジンが出るところを、数カ所から出るようになるので、単純にプロスタグランジンが倍増してしまいます。
②臓器・組織がくっつく(癒着)
本来、臓器はそれぞれ腹膜という薄い膜に覆われていてくっつくことはありません。しかし、子宮内膜が腹膜について増殖すると炎症や出血で腹膜が溶けてしまいます。
この溶けたところが癒着します。この癒着が発生すると痛みが出ます。
この癒着は、外科的手術でしか治せません。手術で一度剥がしても、再発しやすい特徴もあります。
子宮内膜症が発症しやすい3つの場所
子宮内膜症は、できる場所によって症状が変わってきます。
正常であれば、この様な位置関係に臓器は存在しています。
腹膜病変
*腹膜とは、お腹の中にある内蔵の表面を覆っている膜です。
お腹をつつむ腹膜に子宮内膜組織がついてしまう症状で、よくみられる症状です。
生理サイクルを繰り返すうちに、次第に大きくなって、数も増えるので周囲の臓器との癒着を引き起こします。ブルーベリーのような色の斑点が腹膜にできます。
1.チョコレート嚢胞(のうほう)
子宮内膜症ではこのチョコレート嚢胞が一番多いです。
卵巣に子宮内膜組織が入り込んで、増殖してしまう症状です。
生理サイクルとともに、どんどん大きくなります。(卵巣の中に剥がれ落ちた子宮内膜組織が溜まっていく)
血が溜まっていくので、黒っぽい色の塊になります。チョコレートのような見た目になることが名前の由来です。
大きくなると、破裂やねじれるリスクがあります
ねじれたり、破裂すると、下腹部に激痛が走り、救急搬送されて緊急手術になる場合もあります。また破裂すると、病片が体内に散らばってしまいます。
進行するまで症状が出なくて、急激に大きくなることもあるので、気付いた時にはすでに大きくなってる場合もあります。最近の研究ではチョコレート嚢胞が、稀にがん化する事がわかっています。
年齢が上がるほどに、がん化のリスクが高くなります。がん化の可能性がある場合は、閉経していても手術をすすめる場合もあります。
2.ダグラス窩閉塞 (ダグラスかへいそく)
ダグラス窩に子宮内膜組織が増殖して、閉塞してしまいます。
*ダグラス窩とは、子宮と直腸の間にあるくぼみのこと(子宮の直腸の空間の一番下の部分)
ここに子宮内膜組織ができると剥がれ落ちた子宮内膜組織がダグラス窩に溜まっていきます。子宮内膜組織によって、剥がれ落ちた部分は炎症を起こして、癒着を引き起こします。
その結果、子宮と直腸がくっついてしまいます。子宮の直腸が癒着することでダグラス窩がふさがってしまいます。
この癒着が生理痛や排便痛、性交痛を引き起こします。
この3つ以外にも、ごく稀に肺やへそ、大腸・膀胱・膣などにできる場合もあります。
3.子宮腺筋症(しきゅうせんきんしょう)
子宮内膜が子宮筋層にできる病気です。
*子宮は子宮外膜・子宮筋層・子宮内膜の3層構造になっています。
子宮筋層にできた子宮内膜も生理サイクルで増殖→剥離を繰り返します。
症状が進行すると子宮筋層が厚くなったり、子宮が変形します。この子宮の変形が不妊や流産の原因となります。
子宮にコブができる子宮筋腫と違って、部分的・全体的に子宮筋層が厚くなります。症状は、強い生理痛や生理量の増加など子宮内膜症と同じです。
子宮内膜症の治療法
大きく分けて、薬物治療と手術治療があります。まずは薬物治療から見てみましょう。
薬物治療
対処療法として、鎮痛剤や漢方薬を使用して、痛みを和らげる方法があります。
そして、もう一つホルモン療法があります。子宮内膜症は、基本的に生理が来るたびに症状が進行してしまいます。
そこで治療としては、生理サイクルをコントロールしたり、生理量を減らすことが有効になってきます。ホルモン療法することで、生理サイクルをコントロールすることができます。
生理をコントロールする事で、結果的に生理量が減って生理痛が軽減します。
低用量ピル(LEP)
飲み薬です。保険適用になって利用しやすくなっています。
使用条件:35歳以上で1日15本以上の喫煙者や血栓症を持っている人は利用できません。
副作用も少なく、長期服用できるので20~30代の人にオススメです。
ミレーナ(子宮内黄体ホルモン放出システム)
医師によって、子宮内にミレーナを装着します。月経困難症と診断されると保険適用されます。子宮内に挿入するので、妊娠・出産経験がある女性が主な対象者になります。
挿入後は、黄体ホルモンが子宮内で持続的に放出されます。ほぼ確実な避妊にもなり、一度挿入すると、5年間有効です。
ジェノゲスト(黄体ホルモン製剤)
飲み薬です。一番新しい治療薬です。
エストロゲンを低下させないので、更年期障害や骨粗しょう症などの副作用は心配ありません。しかし、黄体ホルモンの副作用が出ます。
副作用としては、不正出血、頭痛、倦怠感、気分の落ち込み、乳房痛などがあります。
特に不正出血がよく見られます。
GnRHアゴニスト
点鼻薬と注射があります。とても効果的ですが、副作用も強く出ます。
特に骨粗しょう症リスクが上がるため、最長で6ヶ月までしか使用できません。
子宮内膜症(特に子宮腺筋症に効果的)や子宮筋腫を小さくしてから摘出するために、手術前に使用することもよく行われています。
ホルモン治療中は妊娠できない
ホルモン治療は生理サイクルをコントロールして、生理にならない様にします。つまり、ホルモン治療中は妊娠できません。すぐに妊娠を望む人には不向きです。
手術治療
症状によって選択肢が変わりますので一概には言えませが、臓器を「残す・残さない」が大きな分かれ目です。
保存手術
病巣だけを切除します。
臓器摘出手術
摘出手術は主に4パターンあります。
- 子宮、卵巣ともに全摘出する
- 子宮だけを全摘出する
- 卵巣だけを全摘出する
- 卵巣を1つ残して、1つだけ摘出する
更年期障害症状が出る(卵巣全摘出の場合)その他の選択肢として、方法が1つあります。
MEA(マイクロ波子宮内腔焼灼術)
電子レンジと同じマイクロ波を子宮内膜に当てて、焼灼します。生理の量や痛みに効果を発揮します。
しかし、50%の確率で無月経になってしまいます。将来的に妊娠したい人には施術できません。
まとめ
治療法はあなたの年齢や将来プラン(妊娠)によって大きく変わってきます。納得いくまで、お医者さんに質問して積極的に治療に関わっていくことが大切です。